2025年7月16日。
TENTから、新しいスツールが発売されました。
その名も「OSTOOL(おスツール)」。


今回は製造現場である愛知県知多郡にあるカリモク家具株式会社へお邪魔して、OSTOOLの着想から実現までのプロセスについてお話を伺っていきます。
よろしくお願いします。

左から、TENTアオキ、TENTハルタ、カリモク家具淡路さん、カリモク家具河合さん、カリモク家具山田さん
究極の仕事椅子
TENTアオキ
そもそもハルタさん、このスツールを思いついたきっかけを教えてください。
TENTハルタ
僕はアオキさんとTENTを結成してから14年以上、仕事椅子として様々なもの試してきたんです。
いわゆるキャスター付きの大きなオフィスチェアから始まり、小ぶりなダイニングチェアとかバランスボールとかも。

ハルタ
TENT共同代表/プロダクトデザイナー
アオキ
バランスボールに無理やりキャスターつけたり、スタンディングデスクを自作してみたり、いろいろ試しましたよね。
ハルタ
いろんな椅子を使う中で、どれも腰が痛かったり肩が凝ったりして悩んでいました。また一方で、ずっと椅子に座ってるよりもちょくちょく違う場所で作業や休憩することが大切だと気づいて。
ハルタ
あと、TENTは部屋の真ん中に大きなテーブルを置いて、みんなで向かい合いながら作業しつつ頻繁に話し合うっていうのを大切にしているので、あんまり大きい椅子は置きたくないんです。

TENTのオフィス
アオキ
スツールって背もたれがなくて、前後左右どこからでも出入りできるから、立ったり座ったりしやすいから。
TENTでは2015年くらいから、全ての椅子を手放してスツールだけにしましたね。
TENTのオフィス
ハルタ
その影響もあって、僕は家でも、台所で料理したりリビングで食事したりでよくスツールを使うようになりました。
だらしなくて申し訳ないんですけど、夏だと半ズボンとか薄着のまま座りながら自分の足をスツールの脚に絡めちゃったりするんですよ。
ハルタ
その時に、座面の角とか脚の角が足にあたるのがすごく嫌で。触れるところが全部丸くて優しいスツールができないかなって考えて「木でできたパイプスツール」のような形を思いつきました。
ハルタ
それからすぐに知り合いの家具職人さんにお願いして試作してもらって。具合が良さそうなので製品化先を探して、淡路さんに連絡を取りました。

淡路(あわじ)さん
カリモク家具株式会社 事業開発部 プロモーション課所属。 青山学院大学経営学部卒。 木工職人を12年(内、4年は自営)、法人営業を5年経験後、2022年3月にカリモク家具へ入社
アオキ
たしか10年以上前、その当時は個人で家具職人をやられていた淡路さんと僕は何度かイベントでご一緒してて、それ以来うっすら知り合いだったんですよね。
その淡路さんが今はカリモク家具にいるって聞いて、久々に会おうという話になったので、このスツールの製造について相談させていてだきました。
淡路さん
たしかすぐにTENTの皆さんにKarimoku Commons Tokyoをご案内させていただきましたよね。

Karimoku Commons Tokyo
アオキ
そうですね。Karimoku Commons Tokyoの案内が終わってから「TENTでこんなスツールを考えてるんですけど、カリモク家具さんで作れませんか?」って相談したところ…
淡路さん
「カリモク家具で商品化して欲しい」みたいな相談をありがたいことによくいただくんですけど、なかなかお応えするのが難しい面もあって…そうではなく、カリモク家具がOEM(受託製造)としてであれば対応しやすいかもしれませんと回答しましたね。
ハルタ
カリモク家具さんがOEMを受け付けているなんて意外でした。
淡路さん
15年くらい前からOEMを徐々に積極的に受け入れるようになりました。なので、こういうお話は大歓迎です。
地球から取ってきました
淡路さん
その後、愛知県知多郡にあるカリモク家具の工場もいくつか案内させていただきましたよね。
ハルタ
あの工場見学は本当に驚きの連続でした。規模が想像の3倍以上あったし、工場内も清潔で、整理整頓が行き届いていて。

淡路さん
そうですね。集塵機が通常求められるスペックの2倍くらい配備してますから、木屑があまり舞わないんですよね。
ハルタ
集めてきた木を乾燥させておく場所から、加工して接着して集成材にしたり、ソファーと合体させたり全ての工程を見させていただいて。
アオキ
小学生みたいな感想になっちゃいますけど「本当に、地球から取ってきた、天然の木からできてるんだあ!」って思いました。
淡路さん
材木屋さんがやるようなことを内製していたりとか、他の家具屋さんとは違いますよね。
アオキ
地球からとってきました!って感じの荒々しい木が置いてあるのに、工場はクリーンでオートメーションされてて、そのギャップがすごかったですね。
淡路さん
ありがとうございます。私は私でTENTさんのモノづくりのやり方とか考え方をずっと見ていて。
デザインの考え方を丁寧にわかりやすく動画にされたりとか、すごい社会貢献だなと思っていまして。いつかお仕事をご一緒する機会が作れたらいいなと思っていたんです。
ハルタ
ありがとうございます。
何度も手作り何度も破壊
淡路さん
工場見学の後に、カリモク家具の副社長である加藤洋が「こういう構造だったら簡単に製造できると思う。」と言ってたんですけど、意外とものすごく大変だったんですよね。
河合さん
そうですね。加藤から試作品を見せられて「これを作るぞ」って言われて。

河合(かわい)さん
東浦カリモク株式会社 設計課 設計所属。名古屋工業大学建築デザイン分野卒。2021年4月に東浦カリモクへ入社。
河合さん
最初に見た時から、脚のR部分の強度を担保するのが大変そうだなと。ただ、そこさえクリアすれば大丈夫だなって。まずはこの試作と同じような構造で一つ制作したんですけど、強度試験したらすぐに壊れてしまって。
アオキ
試験する前は「まあいけるだろう」という感じだったんですか?
河合さん
いや正直「たぶん無理だけどやってみよう」という意味合いでやってました。とはいえデータはとれたので、ここからどう改善していくか。
フィンガージョイント、曲げ木、成形合板…いろいろ手段はあるんですけど、仕上がりの見た目として好ましいフィンガージョイントで検討を始めました。


フィンガージョイント:端部をジグザグに切削加工し、相互にはめ込んで接着する方法
河合さん
ただもう、そこからが本当に長かった…。
アオキ
どのあたりに苦労されましたか?
河合さん
最初は脚一本を2部品で検討したんですけど、繋げた部分に捻る力がかかって、どうがんばっても無理だとわかりました。そうなると脚一本を3部品に分けるしかない。
そして分けたら分けたで弱点が2箇所になるので難しい。

河合さん
それでまあ、何度も試しながら、幅や長さを調整して、この形に落ち着きました。

接着させたブロックから削り出された丸棒形状の脚
ハルタ
何度も試験にかけたというのは、そのとき、一脚一脚、スツールを完成させて破壊するという繰り返しなんですか?
河合さん
そうです。コンピューター上のシミュレーションはあるんですけど、実際の木のフィンガージョイントとなると難しくて。現物を作って試験するしかなかったんで。
ハルタ
その都度、手で椅子を作るわけですよね。
山田さん
そうですね。試作品は全て手作りしています。とくに今回は丸い脚の制作に苦労しました。

山田(やまだ)さん
東浦カリモク株式会社 設計課 試作所属。高校卒業後、飛騨高山の木工芸術スクールに1年間通い卒業後、2023年4月に東浦カリモクへ入社.
山田さん
というのも、1/4円弧の形状をしたルータービットで四角い板を削り出して丸い脚を作るのでルーターで4回削るわけですけど、どうしてもそこに段差が生まれてしまう。

山田さん
そこを後から手で削って丸い脚にしていくんですけど、カーブの部分もありますし、非常に手間がかかりました。
淡路さん
この脚を一本作るのにどれくらい時間がかかるものなんですか?
山田さん
だいたい脚一本に、丸一日とか。それ以上かもしれないですね。
ハルタ
ええー!?脚は4本必要だから4日……それを、完成次第すぐに強度試験にかけて破壊しちゃうわけですよね?
河合さん
そうです。強度試験機に入れたら10秒くらいで壊れます。
ハルタ
うわあー!それはありがとうございます。
アオキ
試作で変更を繰り返したのは、この接合部の位置ですか?
河合さん
そうです。木目で割れる方向が決まってくるので、木目の角度と分割位置とを、かなり検証しました。

ハルタ
素人考えだと「45度で分割すればできそう」って思っちゃうんですけど、そうじゃないんでしょうね。
河合さん
それも一回やったんですけど、捩れる力が加わると簡単に折れてしまう。木目の角度がちょっと違うだけで欠けてしまうんです。何回もやるしかなかったですね。
アオキ
試験ってパーツだけでは意味がないだろうから、毎回椅子として完成させてるわけですよね、手作りで。すごい手間…。
淡路さん
僕も元木工職人だから思うんですけど、この場所でこういうふうに繋ぐなんて普通は思いつかないです。何度かチャレンジしてダメだったら「そもそも無理かもですね」って言っちゃいそう。
河合さん
3パーツにしたのにはもう1つ意味があって。分割が2箇所になることで、捻れを2箇所に逃すわけです。
アオキ
なるほど。力を分散する。
ハルタ
すごい。これ眺めながらお酒が飲めちゃいそうです。
河合さん
こちらも正解が分からなかったんで、何度でもやるしかないなって。
淡路さん
本当に、よく辿り着きましたよね。これを実現できるのはカリモク家具に何度でも気軽に試験ができる環境が整っているからなんです。
淡路さん
また、今回の件は、カリモク家具の強度試験の基準が厳しく設定されているからっていうのもあります。
ハルタ
ここまで検証いただけると安心できますね。長く使いつづけてもらえる。
ハイテク&ハイタッチ
アオキ
そこから先の量産では苦労などありますか?
河合さん
やはり脚ですよね。さきほど説明したフィンガージョイントの部分が、強度試験としては問題なくても、機械加工の途中でバシーンと破壊されてしまうので、通常よりもゆっくり削るなど工夫しています。
あとはこの脚がシンプルなようでとても複雑な形をしているので、機械加工にかけるにしても、何度も持つ位置を変えないといけない。持つ位置を変えるたびに微妙に位置がずれてしまいますし、その微調整を何度も行いました。

淡路さん
ちなみに、手作りだと脚を一本作るのに1日かかるという話がありましたが、機械加工を実現することで1本7分でざっくりした形状までは完成できるようになりました。そこからまた手磨きという工程はあるのですが。
アオキ
1日から7分ってとんでもなく楽になったように見えますけど、それを実現する工程の設計にものすごく手間がかかってるんですね。
淡路さん
試作時には熟練した職人の手仕事で、量産時には最先端の機械加工で。これがハイテク&ハイタッチというカリモク家具のモノづくりの哲学だったりするんです。
アオキ
なるほどー、素敵な哲学です。

アオキ
「モノづくり」をクリエーションとオペレーションの2つに分けたとして、カリモク家具さんの場合、そのどちらもすごくハイスペックですよね。
その上で、その2つを橋渡しする時にわりと喧嘩とか起こりがちだと思うんですけど、スムーズにつながっているのがすごいと思います。
河合さん
いやそれは文句を言われることもありますよ。新製品を作るとして、加工の時間が長かったりすると機械が占有されてしまって他のものが作れなくなるから「勘弁してくれ」って話とか。

河合さん
よくあるのは、人が部品を(研磨)調整してるじゃないですか。その調整時間と加工時間に差が生まれる。機械加工に7分、調整に3分だとしたら4分間は人の手が空いてしまう。
そんな時に現場から「やることがねえぞ」って指摘されます。
アオキ
なるほどー。現場からなんですね。
河合さん
そうなると、機械加工の時間を短くするのか、あるいは空いた時間に別の手作業を入れるのかという工夫が必要になります。

淡路さん
私たちの中では「セル生産方式」と言って、もとはトヨタ生産方式から学ばせていただいた方法なんですけど、完全な流れ作業とは違う、小さなセルの中で作業をグルグル回すみたいな方法をとっています。
アオキ
たしかに、流れるように作業されてましたもんね。効率面も重要だと思うんですが、あんなふうにハマっているルーティンは、作業する方もモチベーションを落とさずにすみそう。
河合さん
それもあるかもしれませんね。ラップタイムも測っていて、工数を出して見積もりを算出する形になっています。
アオキ
そういった効率的な作業に慣れた方は、お家でも洗濯機を回しながら料理したりできるんですかね。
淡路さん
料理が終わったら洗い物がないみたいな。
河合さん
自分も家で、料理しながらお皿洗ってます。

淡路さん
達人になると本当に動きに無駄がなくて。機械を使ったら掃除も終わってるみたいな綺麗な動きは見ていても楽しいですよ。
長期使用が実装されたデザイン
淡路さん
このスツールはカドがないので人の体に優しいっていうのは、最初にハルタさんが意図された通りだと思うんですけど、私はもう1つ利点があると思っていて。
家具って、カドがあるとそこから削れていくものなんです。長く使っても傷がつきにくいし、ついたとしても自然なものになると思うんです。そういう意味で、長く使えることが実装されている素晴らしいデザインだなあと思っています。

淡路さん
多くのデザインは「格好いいから」という理由でピンカドが採用されがちで。OSTOOLの丸っこさにはハルタさんアオキさんの人柄が現れてますよね。
たとえば公共の場でも長く使いやすい。カラバリもありますし、たくさん並んだ姿を見るのが楽しみです。

山田さん
僕は、自分が作ってて「良かったなあ」と思うポイントがあります。この、椅子を裏返した時に見える、脚どうしが接合した部分。組み立てた時に「綺麗だなあ」と思っていて。
ここはちょっとでも誤差があると実現できない部分なので、実現できてホッとしました。
ハルタ
すみません…精度が厳しいとは知りつつ、ダメ元でお願いしたら「できる」とのことだったので、お願いしちゃいました。
淡路さん
さっきハルタさんのことを「やさしい」って言ったばかりですが、こういうところは厳しいですよね。
ハルタ
スツールって、掃除する時に机の上に置いたりとか、わりとひっくり返して裏側を見るシチュエーションもあったんですよね。
でもどこのスツールも、脚の接合部分が未完成な感じがモヤモヤして。今回やりたいことをやらせてもらえてスッキリしました。
アオキ
誰が見るんだ!という場所へのこだわり。
河合さん
まあ今回はフラットパックで配送して、お客さんが自分で組み立てる方式なので、この裏側の接合を目にする機会は必ず訪れると思います。
河合さん
今回、自分達の陰ながらの努力がこうやって表に出してもらえるのは嬉しいですね。作る過程を取り上げてもらえることって滅多にないんで。
アオキ
そうなんですよ。世の中、広報やデザインの人ばかり表に出てますけど、本当に面白いことって、モノづくりの現場にあると僕は思ってるんです。
ぜひカリモクさんでも、こういった話をどんどん表に出していっていただけると、世の中がさらに楽しくなるので、嬉しいです。
材料に敬意を払う
淡路さん
そういえば、材料の選定にも紆余曲折ありましたよね。さまざまな材料で試作を繰り返して、最終的には、座面はクリ材、脚はナラ材を採用しました。
ハルタ
ナラは硬くて、クリは軽い。それぞれの良さを活かせましたね。それにしても、木によってそんなに性質が違うものなんですね。
淡路さん
昔ながらのウィンザーチェアを見ると、スポークと座面で材を変えていたり、そういう工夫は伝統的にある考え方なんです。

淡路さん
でも「シンプルこそ正義」と考えられることも多くて、単一材にこだわります。
私が「軽いクリと固いナラの組み合わせでどうですか」と提案したとき、ハルタさんがすぐ採用してくれたので、ちょっとびっくりしました。材料に敬意を持っていただけているなあって。

ハルタ
最初に工場見学して、木材にしっかり敬意を感じてましたからね。
淡路さん
工場見学してもらってよかったー!

淡路さん
日本には約1200種類の木が生えていて、その木をいかに適切に使うかが、私たちが地球に健康的に長く住むためにも大事なことですからね。

ハルタ
デザインした立場からこんな事を言うのはなんですが、このスツールって、製品写真を見ても「なんてことない」ように見えちゃうと思うんです。



ハルタ
でもそれを実現するために、1つ1つの知恵の結晶が積み上がって生まれたんだってことが、あらためて分かりました。
アオキ
本当に木の塊から丁寧に削り出して手で磨いて、たくさんの創意工夫が集積して作られていて。妥協して使う簡易的なものではなく、納得して使えるものができたと思います。

アオキ
ただの「スツール」ではなく「"お"スツール」と丁寧に呼んでもらえるような、長く愛用してもらえる存在になれると嬉しいですね。
今日はありがとうございました。
全員
ありがとうございました。

使うたびに体に馴染んで
気づけば自然と座ってしまう
そんな大切な相棒になってほしくて
その椅子に
OSTOOL(おスツール)
と名前をつけた。



この記事はTENT青木のnoteの過去記事を修正して転載したものです。
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