2025年8月
青山ブックセンターから『Anywhere Book Case(エニウェア ブック ケース)』という、ちょっと変わった本棚が発売されました。




これを記念して、2025年9月21日に青山ブックセンターで開催された「本屋が本棚を作った話」というイベントにて、私TENTのアオキと、kernのタカヤオオタさん、そして、いちはやくこの本棚を購入し愛用してくれているトバログの鳥羽さんとで、開発背景などについてお話しました。

初対面から始まった
TENTアオキ
そもそもどうやってプロジェクトがスタートしたんでしたっけ
タカヤさん
僕は青山ブックセンターのロゴを4,5年前に作らせてもらったんですけど

kernのページより引用

kernのページより引用
タカヤさん
僕自身、本が好きなんで定期的にお店に寄って、そのたびに店長である山下さんと立ち話してたんです。「最近どうですか?本は売れてますか?」とか。
「昔より本が売れなくなっているけれど、青山ブックセンターとしては本がある生活に馴染む何かを作っていきたい」っていう話はずっと聞いていて。
ある時「本棚を作りたいんですよね」って言われたんです。
その数日前にちょうど、僕はTENTのアオキさんと初めてお会いしていたので、さっそくアオキさんへ「こういう話があるんですけど、興味ありませんか?」って連絡しました。

左から、タカヤさん、トバさん、TENTアオキ
(photo by ようへい さん)
アオキ
そうでしたね。僕は「いまさら本棚で何ができるかわかんないけど、めっちゃ面白そう」って思いまして。たしか声がけが12月末ごろだったので、年が明けた1月に、青山ブックセンターの会議スペースに集合しました。
トバさん
個人的には、そこからのプロセスみたいなところに興味があるんですけど
描き始めたら止まらない
アオキ
青山ブックセンターの店長である山下さんが、わりとちゃんとされてる方なので、それこそ最初は「どういう座組みで、どれくらいのデザインフィーでやれますか?」みたいな雰囲気だったんです。
でも正直、まだ何作るかもわかんない状態だから、どれくらい工数かかるかもわかんないじゃないですか。
だから趣旨を明確にするために、僕がいつも使っているMETHOD(メソッド)というツールを使って、話し合うことにしました。

アオキ
METHODっていうこれ、A6サイズの紙とサインペンがセットになっていて、ようは「動くマインドマップ」を机の上に広げられるというものなんですけど
タカヤさん
これ僕は度肝を抜かれたんですけど、「なんか本棚つくりたい」以外の要件がない中で、アオキさんが「とにかくどんな本棚が欲しいのか、既存の本棚への不満とかいろいろ書いてみましょっか」って言われて。
そこからとにかく全員で吐き出していく、そんなプロセスでしたよね。

アオキ
そうですね。三人それぞれが話したことを、僕がカードに書いて机に並べていく。たとえばタカヤさんが「本は置きたいけど家具はいらないんですよね」って言ったなら、それを書き出す。
トバさん
面白いなあ。僕はけっこう「なんか作りたい」ってなったら「こういうものが欲しい」を積み重ねることが多いんですけど。
このカードたちには「こういうの嫌だよねえ」が多くて。めちゃくちゃわかります、この気持ち。

タカヤさん
僕の家にはそれなりの大きさの本棚があるんですけど、買うまでに2~3年探して、結局は消去法で選んでしまったんです。
引越ししたら間取りが変わるから将来まで使えるかどうかも分からない。でも本棚ってけっこういいお値段するし。
アオキ
心の底からの「嫌だなあ」がいっぱい出てますね。
ちなみに右側のほう「本はそんなに置かない」は僕が言って僕が書いたやつですね。

アオキ
僕は引っ越すたびに本を手放してきた人間なので、家には本はちょっとしかない。だから本棚もなくて、なんとなく積んだ状態になっちゃってました。
あとは、Instagramとかオンライン打ち合わせや動画撮影の背景に、なんか背景が本になってる人いるじゃないですか。ああいうのに憧れつつも、そんなに本ばかり置きたくないしなあとも思ってました。


トバさん
これなんかまさに、今の僕の家じゃないですか。

アオキ
振り返ると本当にそうですね!

タカヤさん
この時点から、トバさんは僕たちのターゲットになってたのかもしれない。

アオキ
あとはこういう、積み上げるタイプの格好良い本棚なんかあるけど、素敵な写真集とか洋書じゃないとサマにならないと思っていて。
でも僕は漫画がめっちゃ好きなんで、漫画も含んだ本当に今読んでる本たちがごちゃまぜになった状態を肯定するような本棚が欲しくなったんです。
トバさん
僕の場合はそんなに知識人だと思われたくないし、そもそも知識もないから。ちょっとだけ置くみたいなことがしたかったんです。だからすごく分かります。
アオキ
こういう飾り棚って、花瓶とか、動物の置物みたいなものを置きがちじゃないですか。古いカメラとかラジカセとか置いてあったり。
ああいうのは許されるのに、なんか本ってそういうところに並べては置きづらいんですよね。

アオキ
なんでかなって考えた時に、「カタマリ感」があるものなら、飾り棚に置きたくなるのかも?って思って

トバさん
このハンドルもいいですよね。リビングと作業部屋を行き来する時に、ぼくもiPadと本を持ち歩いたりするんで、そのために箱っぽいものは使ったことがあるんです。でもそれだと中身が隠れちゃう。

トバさん
でもラジカセっぽいこの作りだと、本の背表紙も見えるから置いておいてもかわいいし。
アオキ
タカヤさんはこの辺りのことは覚えてますか?
タカヤさん
覚えてます。けっこう感動的だったのが、複数の人がディスカッションする時って普通「あれやりたいこれやりたい」が集まって話が散らばるじゃないですか。
でもこの、みんなでディスカッションしてるのにどんどん形にまとまっていく、落ちていくというプロセスが、アオキさんすげえなって思いました。
普段からこんな感じで、製品を考えてるんですか?

アオキ
わりとそうですね。文字のカードがわーっと並んで、いつの間にか絵になっていって、具体案ができてくみたいな。
トバさん
じゃあ仕様を決めるっていうのは一番最後。
アオキ
そうですね、仕様を先に決めると、良いものは生まれにくい感覚があって。
タカヤさん
そこがけっこう感動的で。初めて顔合わせした段階で、まだなにを作るかも決まってない時にこのディスカッションができていったんで。
アオキ
実はこの日の僕は、文字の段階でおおよそ方向性が定ったら、書くのを止めるつもりだったんですよね。でも思いついちゃって描き始めちゃったら止まらなくなっちゃって。
トバさん
普通は仕事ってなると、クライアントさん(今回の場合は青山ブックセンターの山下さん)の頭の中にはすでにゴールのイメージがあるものかなと思うんですけど、そことのズレはなかったんですかね。
タカヤさん
そのイメージが固まる前に、会って話していたというのが良かったのかもしれませんよね。もしかすると初回のミーティングが1ヶ月後だったら、それぞれが変に具体的に考えてしまって、衝突してしまっていたのかも。
アオキ
そうですね。でも僕としてもわりと珍しいです。ここまでやり切ったのは。

トバさん
最終成果物を知っているから言えるけど、ここまできたらもう完成形に近いじゃないですか。
アオキ
そうですね。このあたりで上に一冊だけ推し本を置けるみたいな話が出てきてますね。ハンドルのところに本が置けるって言ったのはタカヤさんだったかな。
タカヤさん
ぜんぜん実現可能性とか無視して言ってましたけどね。箱に入った複数の本が最近のその人の頭の中だとして、とくに今読んでる本は、上から取った方が楽だよねって。

アオキ
この辺で透明とか言い始めてますね
トバさん
たしかに透明って本棚では珍しいですよね。ガジェットで言うとわりと流行っているんですけど、あえてこのカラーリングもすごいし。
アオキ
ここはやっぱり、木とか鉄とかも素敵なんですけど、もっと漫画も置きたくなるような雑多なイメージが欲しかったんですよね。だからビニールっぽさというか透明っていいなって思って。
この辺り何度も同じ絵を描いてますね。めっちゃいいじゃん!って盛り上がりすぎちゃって。

タカヤさん
本を高尚なものにしたくない、気軽に生活に馴染む導入しやすいものにしたいっていう当初の話がここに反映された感じがありましたよね。

アオキ
最後のこの辺はもう、キャッチコピーとか商品名とか考えちゃってますね。ブックカセットとか「こういうノリで行こうよ!」って言うイメージがすでに言語化されてる。
作り始めたら止まらない
アオキ
ここまでで打ち合わせとしては1~2時間程度だったんですけど「もうやるしかないっすね!」ってなってしまったので、契約とか見積もりとかは後でやりとりしましょうって言って解散して。
翌日には僕はこんな試作を作ってました。

アオキ
手元のダンボールでガガっと。「すごい良い予感がする」って思ってすぐに写真とってタカヤさんと山下店長に送りました。
タカヤさん
このダンボールバージョンもこれはこれで良いですよね。

アオキ
この試作の使い心地があまりにも良かったんで、すぐに図面描いてアクリル業者さんを探して見積もり依頼して、許可を取る時間も惜しかったんで、とりあえず自腹で試作の発注をしちゃいました。
それで二週間後に届いたのがこの試作です。


アオキ
実はハンドルの寸法を間違えてたんで持ち上げることができなかったんですけどね。
すぐに写真を共有して「めちゃくちゃいいなあ!」と三人で盛り上がりつつ、すぐにオレンジ色の試作も発注しました。で、また数週間後に届いたのがこの試作。


アオキ
この試作については、とくにこの写真を見て欲しいんですけど。

アオキ
ここに並んでるのはうちの子どもたちの本で、この、Dr.スランプを置いた時に「完成した!僕がやりたかったのはこれだ!」って興奮しました。
漫画をごちゃまぜにおいても、インテリアとしてオシャレに見えるこの感覚です。
トバさん
この頃の年代の、こち亀とかドラえもんとか、僕も好きで持ってるんですけど、今の家には合わないんで実家に置いてきちゃったんですよね。
ちょっとこれみると置きたくなるかも。レコードみたいでかわいいですよね。
アオキ
そうなんです!レコードがインテリアになり得るなら、漫画だってインテリアになると思うんです。
職人技が光る
トバさん
ちなみに、この蛍光イエローになったのは、どういう経緯なんですか?


アオキ
たしか素材自体の色が3色くらい選べて、その中の色だったんですけど、蛍光イエローになったのはなぜでしたっけ
タカヤさん
青山ブックセンターのシンボルにも黄色が使われていたので、まずはこの色で行こうって話だったと思います。
トバさん
僕はこの色じゃなかったら買わなかったんじゃないかって思ってて。とくにガジェットの分野で、白にオレンジを合わせるって言うのがここ2,3年のトレンドとしてあると思っていて。
実際に家に置いてみたら、この蛍光がめっちゃ光るんですよね。

アオキ
そうなんです。写真だと伝わりづらいんですけど「蛍光!」って感じですよね。
あとこれ、製造してくれてるのは ZEROMISSIONの天野さんっていう、TENTのBOOK on BOOKを作り続けてくれてる職人さんです。
だからディティールがめっちゃくちゃ綺麗なんですよ。
トバさん
コバの処理とかすごいですよね。本当に綺麗。これ、わりとお高めの商品じゃないですか。だからこういう、モノの作りの良さとか、製造面のこだわりとかをもっと言ってくれるといいのにとは思います。
アオキ
そうなんですよね!いつか製造の取材も言って、ディティールの写真なんかもきちんと撮りたいと思ってます。
DIY感のビジュアライズ
アオキ
ここまでは製品そのものの話だったんですけど、今回ならではの面白みとして、写真やWebやなどビジュアル的なコミュニケーション周りをタカヤさんに担当してもらったんですよね。
Webもこんな感じで、可愛いんですよ。

タカヤさん
今回、写真については僕とか山下さんとかの知り合い四人のお家へ実際に伺って、それぞれのおすすめ本を入れてもらって撮影しています。

クドウナオヤさん
タカヤさん
ここ数年、プロダクトデザインのビジュアルコミュニケーションって、なんかスっとしたコントラスト高いところにソリッドにプロダクトを置いてみたいなハイソな表現が多くて。そういうのもういいかなって。

MICOさん
タカヤさん
本当の生活の中にあって、ただそれを撮る、わちゃわちゃして見ていて楽しいほうが良いんじゃないかって、こういった写真になりました。

小原晩さん
トバさん
僕はルームツアーとかすごい好きなんで、この写真の周辺の「へえ、パソコンこれ使ってるんだあ」とか見れて楽しかったです。3D CGやAIでは絶対に作れないリアル感が楽しいですよね。

カツセマサヒコさん
トバさん
もともと自分が持っている本を動画で紹介したいって思ってたんですよ。でも本を紹介するのって、映像として変化がなくて面白くないから難しい。
でもこれだと、この「モノ感」をフックに動画で紹介できたらめっちゃ可愛くなりそうって思えました。
タカヤさん
ただ本棚を買うとかではなく「自分だったら何を並べたいか」とか「どんな写真を撮りたいか」とか「それぞれのアイデンティティにつながるといいよね」って話も出ていたので、それをいち早くトバログさんが実践してもらえて。嬉しいです。
アオキ
トバさんは知らないところで買ってくれて、知らないうちに動画をアップしてくれてたんです。それでもこんなふうに、裏にある考え方で連携できちゃったってのがすごいですよね。
トバさん
Webサイトのグラフィックもすごく可愛いですよね、Windows98っぽいというか、ちょっと懐かしいような可愛さも感じる。

タカヤさん
そうですね。デザインとして作り込みすぎない。揃えすぎないというのを意識しました。
今回、青山ブックセンターと僕とアオキさんの、すごくDIYっぽいプロジェクトで、お金をかけすぎず、このテンションや感情をどう伝えていくかは割と大事にしました。
アオキ
Webサイトデザインの初期にわりとタカヤさんが悩まれてた瞬間があって。その時に僕が打ち合わせで
「好きな子にミックステープを送る時に、素人なりに一生懸命タイトルをレタリングしたみたいな、そういう下手っぴだけど愛らしい感じにしましょうよ」
ってお願いしたら、タカヤさんが「めっちゃ腹落ちしました!」って目を輝かせてくれました。
タカヤさん
やっぱ僕も十年くらい前からTENTさんのファンだったんで、そのイメージを踏襲した方がいいかなとか、TENTのイメージを損なわないかとかグルグル迷ってて。でもいっそ全く違うものにしようって、吹っ切れた感じになりましたね。
トバさん
パソコンでこのWebサイトを開くと、左側にパックマンみたいなミニゲームが隠れてたりして、良い意味で遊んでるサイトですよね。
今回のプロジェクトが意外とDIY感溢れる感じで作ってたって裏側を知ることができたので、親近感を感じました。
タカヤさん
僕もそこが良い意味でTENTさんのイメージを裏切られました。めちゃくちゃちゃんとプロダクトデザインをやってこられてるアオキさんだったので「声かけても断られるだろう」と思ってたのに
実際にはめっちゃフットワーク軽くて、契約を重ねてというよりは、すぐに自分でダンボールで試作して一気に実現していく。自分たちで色々やる。このDIY感は、ビジュアル面にも滲ませたかったって言うのはありますね。
アオキ
やっぱり道具ってあくまで使う人が主役なので「どうだ、すごいだろう」ばかりでは伝わらないことがあると思うんですよね。
今回は「この本棚をどう使ったら楽しいかな?」って自分たちがワクワクしてる感覚をそのまま、プロダクト、グラフィックの両面から作ることができた実感があります。
みなさんのお家で、使う人それぞれの個性あふれる Anywhere Book Caseができて、そんな様子をSNSなんかで見かけることができたら嬉しいです!


そんなわけで、初対面から一気に駆け抜けて完成した Anywhere Book Caseでしたが。
『青山ブックセンター』と『TENTのTEMPO』では店頭で触ることもできます。ぜひディティールの隅々まで確認してみてください。
この記事が少しでも「誰かと一緒に、何か面白いものを作りたいな!」と思う方のお役に立てると嬉しいです。
この記事はTENT青木のnoteの過去記事を修正して転載したものです。
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