世に出す覚悟はあるか(SAND IT デザインのひみつ)

世に出す覚悟はあるか(SAND IT デザインのひみつ)
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2020年9月4日。

KINGJIMさんからとある商品が発売されました。

その名も SAND IT(サンドイット)

今回は、TENTの3人が、この製品にまつわる開発秘話をお話します。

ハルタ(写真左) こんにちは。


ケンケン
(写真中央)  こんにちはー。


アオキ
(写真右) さて、2020年にKINGJIMさんから発売されたSAND IT。

デザインはTENTが担当したということになっていますが、アイデアを発案したのも、デザインを担当したもの、実はケンケンさんがやりました。


ケンケン いやいや、ハルタさんとアオキさんにいろいろ聞きながらですけど。

ハルタ とはいえ、発案からプロダクトデザイン、ネーミング、コピー、パッケージデザインなどなど、ケンケンが主担当でやり抜いたのは事実だよね。

アオキ ある種の「デビュー」になる製品発売ですね!おめでとうございます。そんなケンケンさんに、根掘り葉掘り聞いていきたいんですが

まずは、この製品を思いついたきっかけは?


衝動としての試作

ケンケン TENTに入社してから、お仕事でいろんな会社へ行って打ち合わせする機会がありました。

ある会社の担当者さんが、大量のA4用紙を裸のままクリップで留めて持ち歩いてて。「ワイルドだなあ」って強く印象に残ってたんです。

ケンケン それ以来たくさんのA4用紙を持ち歩いている人を見かけると気になっちゃって。

例えば、STAN.を一緒にやったFLATROOM種市さんも、いつもたくさんの資料を持ち歩いてて。扱いづらくて大変そうだなって思ってました。

ハルタ ケンケンはどうだったの?

ケンケン 僕は持ち歩きはしないものの、机にA4用紙がどんどん溜まってたので、これをどうにか整理したいなあとは思ってました。

それで世の中に売ってないか調べてみたんですけど、据え置き型のものが多いんですよね。


アオキ たしかにそうかも。蛇腹式のものとかね。

ケンケン はい、蛇腹式のも良いんですけど、蛇腹の数だけ仕切りができちゃうじゃないですか。あんなに仕切りは必要ないなあって思ってて。

アオキ たしかに、僕たちの仕事だと、あんなに細かく仕切ってカテゴリー分けする必要はないもんね。


ケンケン あとは、少ししか紙を入れない時には大袈裟な感じがするなあと思って。

それである時に、マチがゴムでできていればいいじゃんって気づいて。すぐに試作を作ったのが、これです。

ハルタ この時点ですでに、かなり最終形の印象に近いね!

アオキ この試作は、素材は何でできてるの?


ケンケン 家にあった紙の収納ボックスを解体して作ったので、厚紙製ですね。


アオキ すごい、、家の収納ボックスを犠牲にしたんだ。


ケンケン はい、犠牲にしました。(笑)
このアイデアで最初に良いと思ったのは、試作が作りやすいところだったんです。厚紙を切って穴を通して紐を通せばできちゃう。

だからもう、早く試作が作りたくって


ハルタ 良い衝動を感じるなあ。


アオキ ちなみに、最初の時からカードケースも作ってたんだっけ?


ケンケン そうです。A4用紙のファイルだけじゃなくて、名刺ケースとして小さいものも最初から考えてました。



良いアイデアは、良い製品へのリスペクトから

アオキ このゴムで留められてしまうっていうのは、かなり画期的なアイデアだと思うんだけど、実は影響を受けたプロダクトってありますか?


ケンケン あります!


ハルタ あるんだ。


アオキ 普通は言わないと思うんだけど(笑)。ここだけの話として、こっそり聞かせてください。


ケンケン はい、こっそり言いますと、治田さんと青木さんも大好きなミニマライトさんのお財布ですね。

この財布はゴムバンド1本でカード類を留められるんですけど、このアウトドア的な考えというか、少ない材料で、むしろ使いやすさが増している機構がすごいなと思ってて。本当に尊敬してます。


アオキ とはいえ、その構造をまんまコピーしたというわけでは、もちろんないよね。

ハルタ そこ大事なところ!


ケンケン そうですね。尊敬はしつつ、ファイルとして最適な構造はないかなって考えて。板と板で挟み込むっていう構造に至りました。



優しくて厳しいKINGJIMさん

アオキ そんなこんなで、衝動をぶつけて出来上がった試作を、ケンケンさんは、そのまま隠し持っていた。


ケンケン
 はい。しばらく眠らせていたんですけど、ある時、別のお仕事でKINGJIMさんと打ち合わせをする機会を得たので、この試作を持ち込んで提案してみました。


ハルタ かなりあっさり「いいですね、すぐやりましょう」と言ってもらえましたよね。


ケンケン 最初はそうでしたね。ただ、その後が。


アオキ 正式に担当者さんが決まってから、沢山の修正要望が入った。


ケンケン そうなんです。


ハルタ 例えばどんな要望?


ケンケン まず言われたのは「閲覧性」ですね。


アオキ 閲覧性(えつらんせい)。

ケンケン もともとゴムバンドの力で紙全体を挟み込んでいるという構造なので、開く時には力が必要なんです。これを「簡単に開けて、中の紙をペラペラめくれるようにしたい」と。

アオキ おお…それは、この構造アイデアの根本を揺るがすような要望かも。あとは?


ケンケン あとは「保持性」です。


ハルタ 保持性(ほじせい)。


ケンケン ゴムと板で紙を抑え込んでいるとはいえ、ブンブン振り回すと、中の紙がでてきてしまう。これを、振り回しても紙が出てこないようにできないかって。

アオキ もともと挟みこむ力だけで紙を保持する構造だから、振り回されちゃうと厳しいよね。またしても構造アイデアの根本を揺るがすような要望だ。

ハルタ 要望を満たすために、KINGJIMさんからも色々と提案してもらえましたよね。閲覧のために板にヒンジ機構を設けるのはどうかとか。保持性のために樹脂部品を作るのはどうか、とか。


ケンケン はい、でも複雑な機構をどんどん盛り込んじゃうと、板とゴムだけで成立していたっていう最初の魅力が、どんどん損なわれちゃうような気がして。「それはちょっと、やめましょう」ってお願いしたり。

ハルタ ここの部分は、かなり苦しんでたよね。



本当に暮らしの中で使われたいか

アオキ この時、治田さんと僕とで、ケンケンさんにかなりアツく語った記憶があるんだけど。


ハルタ ありましたね。


アオキ 学生時代のポートフォリオからして、ケンケンさんは「シンプルで格好良いもの」を生み出す能力は十分にある。

そして世の中のデザインというお仕事の多くは、それで成立するものでもある。だけどTENTが関わる製品は、それだけではダメなのかもしれないって。


ケンケン 言われましたねー。

ハルタ ちょうどケンケンが、他の仕事でもシンプルで格好良いものを続々提案してて。すごい提案なのに、なぜか採用にならないっていう壁にぶち当たってるタイミングだったよね。

アオキ 格好良くて尖ったプロトタイプ(試作品)を発表し続けてやっていけてるデザイナーは世界中にいる。そういう方向性なら、きっとケンケンは十分通用すると僕は思う。

でもTENTが目指すのは、暮らしの中で本当に使われるもの。

そのためには「格好良さ」と「使いやすさ便利さ」とを天秤にかけるのではなく、本当の意味で両立させる必要があるのかもって。


ハルタ ふむふむ


アオキ でも一方で、そこを目指した結果、いわゆる「先鋭的なデザイン」みたいな尖った部分は失われてしまうかもしれない。

ケンケンは、どんなデザイナーになりたいのか、大きな決断が必要かもしれないって。

ケンケン はい。それで「TENTみたいになりたいです」って言いました。

ハルタ アツい夜でしたね。


アオキ まあ、偉そうに語ってた僕も、その状況を突破するための何のアイデアも思いついてなかったんですけど。


ひらめきは試作をつくる過程から生まれる

アオキ それから数日たった頃、ケンケンがある試作を見せてくれたんです。

ケンケン はい、これですね。

ケンケン 他にもいくつか作りましたけど、考え方は同じです。

ケンケン 裏側のゴムをグッと伸ばして、表紙部分の溝で固定する。

アオキ これはびっくりしました。
1つの機構で、2つの問題点を解決している。


ケンケン そうなんです。ロックすることでしっかり保持して落ちないようにできるし、ロックを外すとゴム紐が緩んだ状態になるから、ファイルを開いて閲覧しやすくなりました。


ハルタ そうして出来上がった試作をKINGJIMさんへ提案しに行ったら


ケンケン はい、自信満々で提案したら、意外にも「ちょっと使いづらい」と回答がきてしまいまして。


アオキ アイデアは良いんだけど、ロックをはずすのがやりにくいと。


ケンケン
 やりにくいの意味がわかりにくくて、相当悩みました。

ケンケン 悩んでいても仕方がないので、試作をたくさん作っていくうちに、新しい構造を思いついて。

できたのが、これです。

ケンケン ナナメの2本の溝だけで、ロック機構を実現する。


ハルタ これだと、表からスッとゴムバンドを持ち上げられるから、すごく扱いやすい、しかも見た目もよりシンプルになってて。いやー、本当に、見事に乗り越えたよね。


アオキ うわー!この人、ハードルを乗り越えた!!って思いましたよ。使いやすさ便利さを向上させながら、格好よさまでアップさせてしまった。

でもさらにここからも、まだまだ試作は作ってましたね。


ケンケン
 そうですね。斜めの深さと、広さ。できれば一本の指で持ち上げられるようにしたくて、何パターンも検証してました。

アオキ ケンケンさんのデスクが試作だらけになって、大変なことになってたよね。よくもまあ、こんなにも検討しました。

アオキ 他に苦労した部分とかはありますか?


ケンケン シート材の厚みについても、数多くの検証がありました。厚みが増した方が硬くて歪みも減らせる。一方で、厚ければ厚いほど重くなってしまって、持ち歩くファイルとしての軽やかさがなくなってしまう。

これについてはKINGJIMさんがたくさんの材料を検討してくれた部分でもあります。

ハルタ このハトメの部分は?

ケンケン ここも試作では金属だったものを塗装にしていただけたのがありがたかったですね。

質感をマットにしたものも作ってみたんですけど、見た目がイマイチだったのと、ゴムバンドの滑りを良くするために、最終的にはツヤを選びました。


ケンケンの板挟み

アオキ 今回は、商品名やロゴ、コピーやパッケージについても担当したわけですけど、その辺りで、何かありますか?

ケンケン 商品名については、みんなで沢山のアイデアを出しました。


ハルタ 板と板で挟む構造だからってことで、面白いところだと「イタバサミ」っていうのもあったよね。


アオキ ありましたね、まさにTENTの2人とKINGJIMさんとの間に挟まっている今のケンケンの状況だとか言って。

ケンケン 最終的にSANDという単語に「挟む」という意味は無いんですけど、国内販売のみだからということで、サンドイッチに近いニュアンスで、このSANDITが採用されました。

アオキ ロゴデザインも数多くのアイデアを出してましたね。


ケンケン はい、パッケージ上にレイアウトした時、プロダクトに刻印したときにどう見えるかを考慮して、今の案に絞り込まれました。


ケンケン カドの部分がナナメになっているのが、本体形状と一致していて、気に入っています。

思い通りがベストとは限らない

アオキ そういえば、本体の色については?


ケンケン 本体色は、かなり幅広く検証しましたね。

当初、僕としてはアウトドアのギアっぽい道具をイメージして作ってきてたので、軍ものっぽいカラバリにしたかったんですけど。

ハルタ KINGJIMさんのほうで、どう展開したいかとかの計画もあったしね。

ケンケン はい。二転三転して、当初想定していたカラバリからは、結構遠い色になりました。


アオキ でも発表後にSNSで「色がすごく良い」と言ってもらえたりしてたよね。

ケンケン そうなんですよ!そう言われて、どんどんこの色が好きになってきてはいます。


アオキ デザイナーって、ワガママを通してこそ一流みたいに言われることがあるんですけど、僕はそうは思っていなくって。

製品を発売する前って視野が狭いし緊張してるしで、拘るべきではない所に拘ってしまったりすることもあると思うんです。


ケンケン なるほど


アオキ SAND ITが発売されて、実際に使った人からたくさんのフィードバックをケンケンさんが受け止める。

その中で、デザイナーとしてだけではなく、実際に使う立場の人としても感覚のチューニングがなされていく気がしてて、僕はそこに、すごく期待してます。

ケンケン そうですね。いろんな所で意識が変わってきてる気がします。


ハルタ ちなみに発表後にすごい反響がありましたけど、どんな気分ですか


ケンケン めっちゃくちゃ嬉しいです。もう、こんくらい。超嬉しいです。

ケンケン ただ、ちょっと不安でもあります。使ってみてどうなのってところが、まだわからないので。

アオキ 確かに。SAND ITがを使っていただけている方は、お気軽にケンケンまでご意見いただけるとありがたいです。ビシビシお願いします!


ハルタ お褒めの言葉も、もしあれば。

 

アオキ では最後に、これから買うよ、使うよという方に向けて、メッセージはありますか?


ケンケン そうですね、使ってくれた方みんな、愛してます!


ハルタ いいね、それ!
でも、もう一言くらいあるかな?

ケンケン ドキュメントフォルダということで几帳面な人が使うイメージがあるかもしれませんが、クリアファイルごとドカっと投げ込むような感じで、ラフに使ってもらえると嬉しいです。

カードケースは、名刺の他にもICカードやポイントカード用だったり、用途に合わせて、複数のカラーを併用してもらえると嬉しいですね。


アオキ はい、では本日は、ありがとうございました!


ケンケン ハルタ ありがとうございました!

この記事はTENT青木のnoteの過去記事を修正して転載したものです。
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